勝どき1丁目

勝どき1丁目の長屋が取り壊されて1年。
去年の夏、偶然通りかかって写真を撮っていた時に住んでる方に色んなお話を聞いた。
その時「取り壊されるまでにまた写真を撮らせてくださいね。」とお願いしつつ、その後父の介護のために勝どきに行く機会を逸してしまった。
ずっと心の中で気になっていたので、今日久しぶりにぶらぶら写真を撮りながら訪れてみた。

白く高い工事用フェンスで囲われた一角に1軒だけ家が残っている。
最後まで売るのを拒否した90歳のおじいさんが一人で住む。

広大なフェンスをぐるりと回って、長屋の横にあったはずの公園に行ってみる。
公園に奥のほうのベンチには以前長屋に住んでいた人たちの姿があった。
数人ずつベンチに座り、たわいもない世間話をしている。
そこには、私に「取り壊されるまでにいっぱい写真撮りにおいでよ。」と声をかけてくれたおばあさんの姿はなかった。

その中の一人の方が、私のローライを見て話かけてくださった。
「古いカメラだね。」
「○○さんがそんなカメラいっぱい持ってたんだよ。取り壊される時に捨てようかと表においたら、あっと言う間にホームレスに持ってかれたんだってよ。」
その話を聞いていた奥さんが
「だってさ、ほら。なんか新橋とか持ってくと高く売れるらしいよ。」
それをきっかけに色んなお話をお聞きした。

最後まで頑張った90歳のおじいさんも、ついに立ち退く事になったこと。
でも立ち退いた後も絶対マンションには住まないと言って、一人で小さなプレハブに住むということ。

立ち退いてからの1年間で5人の方が亡くなったということ。
亡くなったのは一人暮らしの方ばかりだということ。
「今まではね、おい元気かとか、いつも声かけ合って暮らしてきたからね。マンションだとそうはいかないだろ。」

マンションに引っ越すために多くのものを捨てなければならなかったこと。
「生まれてからずっとここに住んでたんだから。今まで捨てることなんてなかったからね。」
「捨てるとさ、色んな人が来て持っていったよ。夜中に外人さんが持っていったこともあったよな。」
「火鉢持っていった人はさ、その上にガラス置いてテーブルにして使ってくれてるらしいんだよ。買えば結構するんだろ。」

「区民を増やして税収を増やさなきゃいけないんだっよ。」
「古いからね、火事になっても消防車が入れないから危険だっていわれちゃうとね。」

ローライで撮っていると、こんな風に色んな方と話をする機会が増える。
でもついつい話し込んで、話に入り込んでしまうと撮るのをすっかり忘れてしまうのですが。

結局今日も気がついたらあたりは薄暗い。
2匹の待つ家に慌てて帰りましたとさ。

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サミット7カ国のうちで、公共事業費が社会保障費より多いのは日本だけ。
日本の公共事業費は、他の6カ国の公共事業費の合計金額より多い。